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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)4435号 判決 1980年1月28日

原告 有限会社正木商店

右代表者代表取締役 正木英吉

右訴訟代理人弁護士 舘孫蔵

加毛修

川嶋義彦

被告 大越繊維株式会社

右代表者代表取締役 加藤津祢

右訴訟代理人弁護士 島田徳郎

滝沢幸雄

被告 伴博

右訴訟代理人弁護士 南元昭雄

主文

被告伴博は、原告に対し、一四一一万八四五〇円及びこれに対する昭和五一年六月一一日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告伴博に対するその余の請求及び被告大越繊維株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告に生じた費用の二〇分の一、被告伴博に生じた費用の二〇分の一及び被告大越繊維株式会社に生じた費用の全部は原告の負担とし、その余は被告伴の負担とする。

この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは原告に対し、連帯して一四八九万五〇〇〇円及びこれに対する昭和五一年六月一一日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、別紙手形目録記載の約束手形七通(額面合計一六六七万五〇〇〇円、以下合わせて「本件約束手形」といい、各約束手形をそれぞれ「本件一の手形」ないし「本件七の手形」という。)を所持している。

2  本件約束手形の偽造

訴外堀基雄(以下「訴外堀」という。)は、被告大越繊維株式会社(以下「被告会社」という。)振出の約束手形を偽造して金員を騙取することを企て、昭和五〇年一〇月四日、訴外株式会社国民相互銀行本店から同銀行の五〇枚綴りの約束手形用紙二冊の交付を受けたうえ、うち一冊を自ら領得し、右約束手形用紙に、被告会社が約束手形を振出す際に使用していた同社の住所、社名、代表取締役名についての社印(ゴム印)及び同社が日常使用している代表取締役印を使用して本件約束手形七通を偽造した。続いて、訴外堀は被告伴博(以下「被告伴」という。)と共謀のうえ、右約束手形を被告伴宛てに振出し、同被告は、訴外クボタ商事株式会社(以下「訴外クボタ商事」という。)等を介して、原告に対し割引のため裏書譲渡した。

3  被告会社の責任

(一) 民法一一〇条の類推適用による責任

(1) 訴外堀は、昭和四六年ころ、被告会社に経理担当として雇用され、本件約束手形を振出した当時、同社の経理担当兼計算室長の職にあって、被告会社における経理全般の責任者であった。そのため、訴外堀は、被告会社の資金繰りについての権限、約束手形、小切手の発行手続に関連する職務についての権限、被告会社が発行した約束手形の振出の確認をする権限、被告会社の取引銀行から約束手形用紙を受領し、それを保管する権限、白地の手形を補充する権限等を有していた。

(2) 訴外堀による本件約束手形の偽造、振出は、同人の被告会社における右権限を超えてなされたものである。

(3) 原告は本件約束手形が被告会社により真正に振出されたものであると信じ、かつ、本件約束手形の割引を仲介した訴外クボタ商事は、右仲介を行う際、被告会社に対し本件約束手形の振出を電話で確認したところ、訴外堀が応対に出て「私が被告会社の経理担当の責任者であり、本件約束手形は確かに同社が振出したものに間違いない。」旨を述べたため、本件約束手形が被告会社の振出に係るものであると信じて仲介をしたものであるから、右仲介を受けた原告も右手形が被告会社により真正に振出されたものであると信じるにつき正当の事由があったものというべきである。

(二) 民法七一五条の責任

(1) 原告は、本件約束手形の各裏書譲渡を受け、被告会社に対し支払を求めたところ、偽造を理由に支払を拒絶され、その結果、本件約束手形の額面相当額の損害を被った。

(2) 訴外堀は、被告会社において前記(一)(1)の各権限を有していた。したがって、その職務内容も手形の作成事務と密接に関連しているから、訴外堀の前記偽造の行為は、被告会社の事業の執行についてなされたものというべきである。

4  被告伴の責任

(一) 不法行為責任

(1) 被告伴は、前記のとおり訴外堀と共謀のうえ、本件約束手形七通を偽造、振出した。

(2) 原告は、本件約束手形の各裏書譲渡を受け、被告会社に支払を求めたが、偽造を理由に支払を拒絶された。したがって、原告は、本件約束手形の額面相当額の損害を被った。

(二) 手形上の責任

(1) 被告伴は、被告会社名義の署名のある別紙手形目録記載(裏書、被裏書人欄を除く。)の本件約束手形に、拒絶証書作成を免除して、各裏書をした。

(2) 本件約束手形の裏面には、別紙手形目録中裏書人欄及び被裏書人欄のとおりの各裏書の記載がある。

(3) 原告は、別紙手形目録のうち本件一、二、六、七の各手形を、各満期に支払場所に支払のため呈示した。

5  よって、原告は、被告らに対し連帯して、被告会社については民法一一〇条の類推適用による表見代理又は不法行為(使用者責任)に基づき、被告伴については不法行為に基づき、現在までに被告伴から弁済を受けた一二八万円及び本件約束手形の裏書人の一人である訴外藤崎博から弁済を受けた五〇万円の合計一七八万円を控除した一四八九万五〇〇〇円(被告伴については、うち一〇二二万円は手形金として請求する。)及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五一年六月一一日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否及び被告らの主張

1  被告会社

(一) 請求原因1の事実は知らない。

(二) 請求原因2のうち、訴外堀がその主張の日時に主張のような態様で約束手形用紙を入手し、本件約束手形七通を偽造したことは認めるが、その余の事実は知らない。

(三)(1) 請求原因3の(一)の(1)、(2)のうち、訴外堀が昭和四六年に被告会社に入社したこと及び昭和五〇年当時被告会社の経理担当兼計算室長の職にあったことは認めるが、その余の事実は否認する。同(一)の(3)の事実は否認する。

(2) 原告は被告会社に対し民法一一〇条の類推適用による責任を主張しているが、右主張はそれ自体失当である。すなわち、原告の主張するところからみても、原告は本件約束手形の受取人ではなく右手形の第二ないし第四裏書人ということであるが、民法一一〇条における「第三者」とは、手形行為においても、その直接の相手方に限られるものと解すべきである。したがって、原告が同条にいう「第三者」に該当するものでないことは明らかである。

また、手形上の表見代理が成立するためには、第三者が手形行為の代理者に代理権限ありと信じたことに正当の理由があることを必要とするが、そのためには第三者において、その代理人がなんぴとであるかを認識していたことを前提とする。ところが、本件において、原告が本件約束手形を取得した当時、それが訴外堀の作成したものであることを知っていたと認められる事実は全く存在しない。この点からも、原告の表見代理の主張は失当である。

(四)(1) 請求原因3の(二)の(1)のうち、被告会社が偽造を理由に本件約束手形の支払を拒絶したことは認めるが、その余の事実は知らない。同(二)の(2)の事実は否認する。

(2) 被告会社の手形振出業務、現金出納等は経理部会計係が担当しており、一方、訴外堀は、本件当時、経理部経理係として仕入先元帳の記帳等の業務に従事し、被告会社の手形振出行為はもとよりその準備行為にも何ら関与していなかったばかりか、金銭出納、手形の受渡しにも関与したことがなかった。また、被告会社の印章等については、代表者印及び銀行届出印は被告会社代表者自身が、被告会社のゴム印、社判は会計係がそれぞれ管理しており、訴外堀はそのいずれも保管する立場にはなかった。したがって、被告会社においては、訴外堀が本件約束手形を容易に偽造できる施設機構及び事業運営の状況にはなかったものであるから、訴外堀の本件約束手形の偽造行為は、民法七一五条の「事業ノ執行ニ付キ」なされたものということはできない。

(3) 被告会社が手形を振出すのは、商品の仕入れのため取引先に対して代金を支払う場合に限られ、市中の金融業者から融資を得る目的で振出すことは全くなかった。したがって、被告会社が金融ブローカーである被告伴に対し手形を振出すということがありえないことは、金融業者である原告としても当然に知っていたはずである。

また、被告会社振出の手形に押捺される代表取締役名下の印と本件約束手形に押捺された印とは全く相違しているのであるから、原告が支払銀行に問い合わせれば、本件手形が偽造のものであることが容易に判明したはずであり、また、本件約束手形の受取人兼第一裏書人である被告伴が繊維業者ではなく単なる金融ブローカーに過ぎないことは容易に調査しえたはずである。したがって、原告は、手形割引の専門業者として、本件約束手形を割引くに当たり、これらの点につき何ら調査をしなかったのであるから、重大な過失があったものといわなければならない。

2  被告伴

(一) 請求原因1の事実は知らない。

(二) 同2のうち、本件約束手形が被告伴宛てに振出されたこと、同被告が右手形を原告に対し裏書譲渡したことは認めるが、同被告が訴外堀と共謀して本件約束手形を振出したことは否認する、その余の事実は知らない。被告伴が、訴外堀による本件約束手形の偽造の事実を知ったのは、別紙手形目録の三の手形の振出以降のことである。

(三) 同4の(一)の(1)の事実は否認する。被告伴が本件約束手形の偽造を知った時期は前記(二)のとおりである。

同(一)の(2)のうち、原告が本件約束手形の裏書譲渡を受けたこと、被告会社に対し右手形の支払を求めたところ偽造を理由に支払を拒絶されたことは認める。

同(二)の事実はいずれも認める。

(四) 被告伴は、本件約束手形の割引を受けるに際し、一及び二の手形については昭和五〇年一一月一八日から各満期までの金利として日歩一三銭五厘の割合による金員を、三ないし五の手形については同年一二月一八日から各満期までの金利として日歩一五銭五厘の割合による金員を、六及び七の手形については昭和五一年一月二七日から各満期までの金利として日歩一六銭五厘の割合による金員をそれぞれ天引された。したがって、法定利率を超える利息を元本に繰り入れるならば、原告の被った損害額は原告の主張する額以下になるはずである。

第三証拠《省略》

理由

一  請求の原因1について

《証拠省略》によれば、原告が別紙手形目録のような手形要件の記載され裏書の形式的連続のある本件約束手形七通を所持していることが認められる。

二  請求の原因2について

1  訴外堀が、昭和五〇年一〇月四日に訴外株式会社国民相互銀行本店から約束手形用紙(五〇枚綴)二冊の交付を受けたうえそのうち一冊を領得し、その手形用紙を用いて本件約束手形の振出を偽造したことは原告と被告会社との間に争いがなく、右約束手形が被告伴宛てに振出され、更に同被告から原告に対し裏書譲渡されたことは原告と被告伴との間に争いがない。

2  右争いのない事実に、《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる。

被告会社は婦人衣料の小売販売を営む資本金三四〇〇万円、従業員数約二四〇名(そのうち本社は約五二名)の株式会社であるが、訴外堀は、昭和四六年一二月被告会社の本社に入社し、昭和五〇年当時においては経理部計算室長兼経理担当としてその職務に従事していたものである(訴外堀が昭和四六年に被告会社に入社したこと及び昭和五〇年当時被告会社の経理部計算室長兼経理担当であったことは原告と被告会社との間に争いがない。)。同人は、自らの債務の返済資金の捻出等のため被告会社の約束手形を偽造して振出し割引金名下に金員を騙取しようと企て、昭和五〇年一〇月四日、たまたま経理部会計係の訴外岡本亨の依頼により訴外国民相互銀行本店窓口に赴き同行から被告会社のためいわゆる統一約束手形用紙(五〇枚綴)を受取る際、訴外岡本からの指示では一冊ということであったにもかかわらず、二冊の交付を受けたうえ、そのうち一冊を自ら取得し、その後被告会社六階事務室内において、右手形用紙とともに前記岡本の机の上あるいは机の中にあった被告会社の住所、社名、代表取締役名を刻したゴム印、被告会社名を刻した角印、「大越繊維株式会社代表取締役印」と刻した丸印、チェックライター、日付スタンプ印等を用いて、同年一一月一六日ころ本件一及び二の約束手形を、同年一二月一四日ころ本件三ないし五の約束手形を、同五一年一月一九日ころ本件六及び七の約束手形を偽造し、いずれもそのころ金融業及び不動産業を営んでいた被告伴に宛て振出し、その割引方を依頼した。

そこで、被告伴は、本件一及び二の約束手形については昭和五〇年一一月一八日ころ、本件三ないし五の約束手形については同年一二月一五日ころ、いずれも、金融業者である訴外笠原政之助を介して、手形割引による金融を業とする訴外クボタ商事に対し割引のため譲渡し、本件六及び七の約束手形についても同五一年一月二八日ころ訴外藤崎博及び手形割引の仲介業者である訴外大丸商事有限会社らを介して同じくクボタ商事に対し割引のため譲渡した。そうして、クボタ商事は右各手形を更に原告に対し割引のため譲渡したものである。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

三  請求原因3(被告会社の責任)について

1  民法一一〇条の類推適用による責任の主張について

訴外堀が昭和四六年ころ被告会社に入社し、昭和五〇年当時被告会社の経理担当兼計算室長の職にあったことは原告と被告会社との間に争いがなく、この事実に、《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる。

(1)  被告会社の本社においては組織上経理部、商品部、営業部、人事部の各部が設けられ、経理部は経理関係の業務を、商品部は商品の仕入関係の業務を、営業部は販売関係、各支店の監督関係の業務をそれぞれ担当し、また、右のうち経理部は更に会計係、経理係、計算室(昭和三八年一月以前は計算係)の三係に分かれ、会計係は金銭出納事務、手形小切手の発行事務すなわち手形小切手の作成(ただし被告会社代表者の押印部分の作成を除く。)、交付、取引銀行からの統一手形用紙の受領、保管等の事務を行い、経理係は売掛台帳、仕入台帳等の帳簿類及び各種伝票類の記載、整理並びに税務関係事務等を行い、計算室は電子計算機による各支店の売上額、支払額等の集計、各支払期毎における支払明細表の作成事務等を行っていたものである。しかし被告会社の経理に関する業務のうち資金繰り、金融機関からの借入れ等については被告会社代表者である加藤津祢自身が一切行い、また手形小切手に対する代表者印の押印も右加藤が自ら行っていたものである。

(2)  訴外堀は、昭和四六年一二月に被告会社本社に入社して以来、右のうち経理部計算係及び計算室に勤務し、昭和五〇年当時には右計算室の責任者としての地位にあった。また、昭和四八年八月には経理部経理係に欠員が生じたため、訴外堀は、そのころから経理係員も兼ねていたが、同係としては責任者としての地位にはなく、一係員にすぎなかった。そうして、訴外堀は、被告会社の手形小切手を作成し発行する権限をまったく有していなかったし、その業務に従事したこともなかった。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

以上認定の事実によると、本件約束手形が偽造された当時、訴外堀は、経理部計算室の責任者ではあったが、職制上、被告会社のため同社名で手形小切手を発行する権限がないのはもちろん、対外的にも被告会社を代理する権限を有していたものとは認められず、また、本件全証拠によるも、本件偽造当時、同人が職制上の権限以外に何らかの特別な代理権限を授権されていたものと認めるに足りない。

したがって原告の被告会社に対する民法一一〇条の類推適用についての主張は、訴外堀の基本代理権が認められない以上既にその点において失当というべきである。

2  使用者責任の主張について

(一)  被告会社が偽造を理由に本件約束手形の支払を拒絶したことは原告と被告会社との間に争いがなく、また《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 本件約束手形が偽造された当時、被告会社における手形振出行為は次のような手順で行われていた。すなわち、まず被告会社代表者が、経理部計算室において電子計算機により作成され同経理係によりその記載内容の正確性が照合された支払明細表に基づき、各支払期における手形の振出金額、支払場所である金融機関名等を具体的に決定する。次に、その決定に基づき、経理部会計係が、手形用紙の振出欄に代表者印の押捺部分を除いた手形要件を記載する。続いて、代表者自身が右手形の記載内容を確認したうえ、右手形の振出人名下に、予め銀行に届出のなされている代表者印(代表者「加藤津祢」の個人名のみが刻された丸印であり、本件偽造に用いられた角印及び丸印とは異なる。)を押捺する。然るのち会計係が右手形を受取人に交付する。以上のような順序で行われていた。

一方、被告会社においては、手形の振出は仕入代金の支払のためにのみなされ、その振出先も特に限定されており、右のとおり振出先とされた取引先に対しては予め「口座番号証」なるカードを渡したうえ手形の振出当日に右カードを持参するよう求めていた。また手形の振出日時も限定され、原則として毎月五日の午後一時から三時までの間とされていた。

(2) 次に、被告会社において、銀行に届出のなされている前記代表者印は、代表者自身により社長室の机の抽出の中に施錠のうえ保管されていた(そのため本件約束手形には、前記のとおり右届出印が使用されなかった。)。また、本件約束手形の偽造に使用された社名ゴム印、角印、丸印等の被告会社及び代表者印は、経理部会計係の責任者である訴外岡本亨の管理下におかれ、同人が朝出社するとともに同係の金庫の中から同人の机上に出されたうえ同人の直接の使用に供され、同人が退社する際には再び右金庫内に格納のうえ施錠されていたものであり、その鍵も同人が保管していた。なお、訴外堀による本件約束手形への各押印等は、すべて右岡本が昼休み中席を外した隙になされたものである。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》。

(二)  右認定の事実に前記三1で認定した事実を合わせ考えると、訴外堀の被告会社における職務内容は手形の作成、交付及びそれに付随する業務等と特に関連するところがなく、また被告会社においては経理部会計係以外の者が被告会社の印章等を用い手形を作成することが客観的に容易な状況にあったものと認めることができない。したがって、訴外堀による本件約束手形の偽造、振出行為は、その外形から観察して同人の職務の範囲内の行為に属するものとは認め難いものといわざるをえない。

したがって、訴外堀による本件約束手形の偽造行為は、民法七一五条における「事業ノ執行ニ付キ」なされたものとみなすことはできず、被告会社は右偽造行為について同条の責任を負うものではないというべきである。

四  請求原因4(被告伴の責任)について

1  本件一、二、六、七の各約束手形に関する手形上の責任について

請求原因4(二)(1)ないし(3)の事実は原告と被告伴との間に争いがなく、また同1の事実については前記一で認定したとおりである。したがって被告伴は原告に対し本件一、二、六、七の各約束手形金を支払うべき義務があることは明らかである。

2  本件三ないし五の各約束手形が原告に対し裏書譲渡されたことに関する被告伴の不法行為責任について

(一)  被告伴が訴外堀から本件約束手形の振出を受けたうえ右手形を割引のため裏書譲渡する際、少くとも三以下の約束手形が訴外堀により偽造されたものであることを知悉していたことについては、同被告の自認するところである。そうして、《証拠省略》によると、被告伴による本件三以下の約束手形の裏書譲渡は手形割引金を騙取する目的で同被告と訴外堀とが意を通じ共謀のうえなしたものであることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

そうであれば、被告伴は、右のような意図の下に偽造による本件三ないし五の約束手形を流通においたものである以上、その後右手形を取得することによって損害を被った第三者に対し不法行為責任を免れないものというべきである。

(二)  《証拠省略》によれば、原告は、訴外クボタ商事から、本件約束手形の割引を依頼されたので、本件手形が真正に作成された手形であると信じ、クボタ商事から本件三ないし五の約束手形の裏書譲渡を受けるのと引換えに割引代金として少くとも現金三八九万八四五〇円を支払ったが、いまだに本件三ないし五の手形金の支払を受けることができないのみならず、右金員の返還をも受けていないことが認められる。

そうすると、原告は、被告伴の前記不法行為により少くとも右三八九万八四五〇円の損害を被ったものということができる。

五  結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求のうち、被告会社に対する請求は理由がないからこれを棄却し、被告伴に対する請求は、手形金一二〇〇万円及び損害金三八九万八四五〇円の合計一五八九万八四五〇円から、原告が同被告及び訴外藤崎博から支払を受けたとする一七八万円を差し引いた一四一一万八四五〇円及びこれに対する各手形の満期日以後であり本件不法行為の日ののちである昭和五一年六月一一日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井田友吉 裁判官 持本健司 裁判官堀毅彦は職務代行終了のため、署名、押印できない。裁判長裁判官 井田友吉)

<以下省略>

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